さて、公式コンテンツ市場分析シリーズの最終回は、今後の公式コンテンツ市場の先行きの予測です。
現在携帯の世界で起きている事象と、それによって引き起こされる公式コンテンツ市場への影響を箇条書きでまとめて行きます。
■携帯勝手サイト検索が普及し、勝手サイトにトラフィックがシフトする
ドコモは2006年10月より、iメニュー上で10を超える携帯検索サイトと連携し、勝手サイト検索機能の提供を開始しました。auはGoogleと提携し、同様に勝手サイト検索を開放しています。ソフトバンクもYahoo!モバイルで勝手サイト検索を提供しています。
1年前はどのキャリアもキャリアポータルから完全に勝手サイトを閉め出していたんですが、時流の変化とは恐ろしいもので、今や3キャリアそろい踏みで勝手サイト検索を可能にしています。
これにより、ユーザー行動の変化が当然起こります。
一般的なユーザーは、これまでは携帯サイトを探すときはまずキャリアポータルのメニューから探していたと思いますが、それが「検索窓に検索ワードを入れる」という行動に徐々にシフトしていきます。
各キャリアポータルの検索機能では、公式サイトを優先的に扱うような仕組みにしていますが、それでもよりユーザーは勝手サイトにアクセスしやすくなり、結果的にトラフィックが勝手サイトに流出するようになると思われます。
モバイル検索エンジンも日進月歩で進化しており、精度が上がり使いやすくなってきています。同時に、公式サイトを超えるクオリティを持った勝手サイトも急速に増えています。
こういった状況を鑑みると、現在以上に全トラフィックに占める公式サイトへのアクセスの割合が増えるということはないのではないでしょうか。
もっとも、だからといって即座に公式サイト全体の市場規模が縮小するかといえば必ずしもそうはならないのかもしれません。
携帯公式コンテンツの市場自体は2002年から2005年にかけて年400億円強のペースで拡大しており、音楽配信やゲーム、電子書籍・コミック等の成長市場もあるので、2006年もまだ同じくらいのペースで成長すると思われます。
辛いのは着メロと着うたですね。着メロ自体はすでに市場規模が縮小に入ってますし、着うたはドコモがナップスターと組んで毎月定額で音楽取り放題のサービスを始めてしまったので、今後は相当競争が辛くなりそうです。
市場全体としてみると、3年後くらいには市場規模の拡大がストップするんではないかと無責任に予想しておきます。
一方、勝手サイトの市場規模は………、相当伸びるでしょうね。
予測がつかないくらい伸びると思います。
■携帯キャリアが公式コンテンツを締め出す?
上で少し書きましたが、ドコモはナップスターと組んで、定額制の音楽配信サービスを始めました。携帯オークションでは楽天と組んでサービスを近々開始する予定です。
auはもっと前からそういったコンテンツでの提携戦略を進めており、携帯オークションとショッピングモールではDeNA、SNSではGREE、検索エンジンではGoogleとそれぞれ提携して、サービスを提供しています。他社との提携ではないですが、「リスモ」というauオリジナルの音楽配信サービスもあります。
ソフトバンクはもちろんYahoo!モバイルですね。
これまで、各キャリアは自社で携帯コンテンツを提供することはなく、プラットフォームとしての働きに徹してきたのですが、すでにそういった方針は捨てたのか、自社自身で(あるいはジョイントベンチャーで)コンテンツを提供する戦略にシフトしていることが見て取れます。
これも公式サイトにとっては不利な方向に働きます。
携帯オークションやSNSはこれまで公式サイトにはなっていなかったのでまだしも、ですが、音楽配信サービスは着うたや着うたフルがすでに何社もサービスを提供してましたから、キャリアのこういった動きは公式コンテンツ事業者にとっては生死に関わる事態です。
もちろんキャリアは公式サイトを締め出す、なんてことは一言もいってませんが、実際には一番おいしい集客経路をおさえてしまってるわけで、これは締め出し以外の何物でもないような気がします。
今後もキャリア自身のコンテンツは増えこそすれ決して減らないわけで、公式コンテンツ事業者は苦しい立場に追い込まれていくと思われます。
■携帯ナンバーポータビリティ(MNP)で公式サイトの解約が増加する
2006年10月末からついに携帯ナンバーポータビリティ(MNP)が始まりました。このシステムでは電話番号こそそのまま引き継いでキャリアを移動できますが、携帯サイトの登録は引き継ぐことができません。
ユーザーが他のキャリアに移動すれば、そこで契約していた公式サイトは自動的に解約されることになります。
公式サイトはこれまで、登録しっぱなしで実際には利用していない「休眠会員」が多く存在することにより、効率的に高い収益を上げてきましたが、そういうおいしいユーザーが徐々に減っていくことを意味します。
寝た子が起きて売上が下がる、という構図です。
別キャリアでもユーザーがまた同じサイトを登録してくれればいいですが、休眠状態だったユーザーですから、律儀に登録しなおしてくれるケースは少ないはずです。
今後、MNPでどれくらいのユーザーがキャリア移動するかはわかりませんが、その数によっては、公式コンテンツ事業者にとって相当頭の痛い問題になる可能性があると思います。
■公式サイトの集客方法はキャリアポータルからモバイルSEM、アフィリエイト広告へシフトする
公式サイトの集客がキャリアポータルに頼れなくなった、ということは前回ご説明したとおりですが、そうなると公式コンテンツ事業者は他の集客手段を確立せざるを得ないことになります。
そこで有力な集客手段となりうるのが、モバイルSEMとアフィリエイト広告です。
主要3キャリアが揃って勝手サイト検索を導入したことはすでに述べましたが、これにより、ユーザーのモバイルインターネットへの入り口はキャリアポータルのメニューから検索サイトへと徐々に移行していく可能性が高いです。
公式サイトは、検索エンジンからの集客を無視し得ないようになります。
したがって、検索エンジン経由でうまく客を自サイトに誘導するために、キーワード連動広告の購入やSEO対策といったSEMが当然必要になってきます。
モバイル検索エンジンでは、PCと比べ一度に表示できる検索結果件数が少ないので、SEM競争はより熾烈になりそうです。
「着メロ」「着うた」のような検索件数が多く、成果に結びつきやすいキーワードは相当価格が高騰するかもしれませんね。
アフィリエイト広告はより直接的な集客方法です。
アフィリエイトは個人や法人が持つサイトにテキストまたはバナー画像の広告をはってもらい、その広告経由で会員登録や商品購入等のアクションがあった場合に成果報酬を支払うというものです。
公式サイトの場合、「会員登録=利用料課金」というように即座に収益を発生させることが可能であるため、アフィリエイト広告は非常に効果的です。通常の広告と違い、成果が発生しない限りはお金を払う必要がないため、広告が無駄打ちになるリスクも抑えられます。
アフィリエイト広告をはるのはほとんどが勝手サイトですが、今後勝手サイトは質・量ともに大きく向上していくことが確実です。
アフィリエイト広告は、公式サイトが規模を追求していくには、使わざるを得ない集客手段になっていくと思います。
モバイルSEMにしろ、アフィリエイトにしろ、キャリアポータルからの集客と違い「有料」であることには違いないので、公式コンテンツ事業者にとっては、その利用は痛し痒しというところですね。
これらの集客手段を利用することにより、会員数は増え売上も上がるかもしれませんが、同時に販促費も増え収益は圧迫されていきます。
とはいえ、使わなければいち早く競争から脱落も確実であり……。
公式コンテンツ事業は、やはり徐々に苦しくなっていくことが避けられません。
■キャリアが課金の仕組みを広く開放する?
モバイル検索エンジンの普及により、「公式サイト」「勝手サイト」という区分や概念も徐々に希薄化していくのは間違いないと思います。
この区分が希薄化すると、キャリアも課金システムを公式サイトだけに開放しておく意味が薄れますので、一定の基準をクリアしたサイトには公式サイトと同様のキャリア課金の仕組みを提供するようになるかもしれません。
キャリアにとっては、コンテンツ課金の収納代行手数料が増えるというメリットもあります。
これは、ある意味では「公式サイト」の概念の拡大であり、ある意味では「公式サイト」という枠組みの撤廃と言えます。
これは希望的観測ではありますが、ぜひキャリアにやってほしいことです。
公式サイトにとっては、さらにライバルが増えてたまらないことだと思いますが……。
どうも公式コンテンツ事業者にとって不利となることばかりを挙げてしまったような気がするのですが、調べても調べてもそういう情報しか出てこないんですよね……。
パケホーダイや高速通信の普及によるコンテンツの利用拡大等の動きもありますが、これは公式サイトにも勝手サイトにも等しく有利に働きます。
公式サイトがこれまで高い収益を維持できたのは、極論すれば「キャリアポータルからの無料の集客」と「キャリア課金が使える」という2つの優位性があったということだけだったので、この2つの理由のうち片方だけでも崩れてしまうと、一気に状況は苦しくなります。
公式サイトはこれまで既得権益に守られてきた存在だったとも言え、権益を守る何かの条件が崩れれば衰えていくのは必然、といえます。
少なくとも私が調べた範囲では、公式コンテンツ事業者は今後ますます苦しくなると言わざるを得ない、という結論になります。
場所を超えてボーダーレスに情報のやり取りを行うインターネットの世界では、「公式」や「勝手」といった区分け自体がそもそも異常であったとも考えられ、それが徐々に本来のインターネットの姿に近づいてきている、ともいえます。
そうなると、今度はキャリア自身が提供しているコンテンツはどうなんだ、という話になりますが、これは大きな論点だと思います。
その是非については改めて論じてみたいと思います。
【追記】
ちょうどいいタイミングでケータイWatchにYahoo!の井上社長のインタビュー記事が載ってました。
■ ヤフー井上社長、「携帯コンテンツも広告モデルに移行する」(ケータイWatch)
ヤフーの井上雅博社長は、17日に開催された記者懇談会で、携帯電話事業者はこれまでの携帯電話の公式メニューという枠組みを一旦捨て去る必要があると語った。
「今の課金モデルは一旦捨てるしかない。PC-VANとかNIFTY SERVEとか、ああいうサービスはもう無くなったと認識しているが、携帯もそうなるのではないかと思っている。その中で、改めてこういうものには課金できるだろうというものは出てくると思う」